「高齢者のすまいづくり通信」29(住宅総合研究財団、平成10年9月)掲載
安楽玲子(講演)
品川区の住宅モデルルームを5年問ほど運営してまいりました経験を少しお話したいと思います。
品川区住宅モデルルームは、1993(平成5)年7月にオープンして、5年経ちます。見て体験できる、そして人が常駐して見学や相談に応じるといった、双方向の情報交換ができる品川方式は、いろいろな面で有効だと思っております。
■直に見て学べるモデルルームをつくる
束京都品川区は、1998(平成10)年1月1日現在、人日315,965人、高齢者が50,813人、高齢化率16.08%です。大体全国平均と同じです。
モデルルーム建設の直接的なきっかけは1992(平成4)年度の地域高齢者住宅計画の策定でした。その中で、すべての高齢者の在宅生活を支える住宅政策がメインテーマになりました。借家層に対する施策としては、シルバーピアなどいわゆる高齢者住宅とか、借上げ型の高齢者住宅の建設、家賃補助、立退きを要求されているお年寄りに対する斡旋・補助、ということがありました。それに対して、持ち家層に対しても、何か施策が必要なのではないかということで、住まいのためのいろいろな情報を提供してはどうだろうか、ということになりました。
いま、23区では住宅改造補助をどこも行っていると恩いますが、これも、基本的には持ち家層に対する施策だと思っています。
一般区民に対する施策としても、持ち家層を対象に、高齢期の生活環境をどう整えればいいかという情報をモデルルームで出していく。施工業者や、職員の方へも知識や情報を提供していこう、ということがありました。モデルルームが出来るちょっと前に品川区で、住宅改造の助成制度が始まり、職員でも、建築が専門ではない方がたまたま異動してくることもあって、住宅改造と言ってもよくわからない。自分たちも勉強したいということも背景にあったようです。啓発、誘導のためには、一般にはマニュアルを作るという方法もありましたが、現物を見られるということがメインとしてありました。
地域高齢者住宅計画策定中に、モデルルームの計画の調整が進められました。高齢者住宅50戸、障害者住宅2戸のシルバーピアが、1993(平成5)年1月にオーブンして、その1階ホールをモデルルームにしようということになりました。
なぜ、そういうことになったかと言いますと、そこば総合福祉施設福栄会という大きな施設の一角ということがありました。そこには、特別養護老人ホーム80床、軽費老人ホーム50床、精神薄弱者授産施設、デイサービスセンターやリハビリ室があります。
また、1階ホールの隣には、在宅介護支援セン夕−をつくることが既に決まっており、モデルルームは、初めから在宅介護支援センターの機器の展示場を兼ねることになりました。これも、私たちの思っていたこととは、ある意味で違いましたが、世の中のニーズに合っていたのか、モデルルームが、いままで続いた要因だと思います。
■相談員が常駐し個別性へも対応可能に
モデルルームの開館日時は、火曜〜金曜日と第1・第3土曜日の10時〜15時です。一般の見学や相談は予約制ではありませんので、自由に来ていただき、見ていただくようにしております。狭い所ですので、団体の場合は予約をお願いしています。
一般の見学や相談を受け付けているのと同時に、1995(平成7)年度からは、「バリアフリー住宅体験セミナー」を実施しています。1コース2時間で、10名程度、一部有料ですが、体験をしていただきながら、いままで、私たちのほうで蓄積した、いろいろな相談事例などを混じえてお話しています。モデルルームの利用は、現在9000人ぐらいで、その1割強がセミナー受講者になっています。
モデルルームには、相談員が常駐しています。相談員派遣及び運営を私どもが受託させていただいております。常駐している相談員は、介護体験のある建築の専門職で、5年も経ちますと全員50代に入りました。現在は、3名が交替で常駐しています。初めから、品川区にはかなり無理を申し上げて、常駐をお願いしました。その理由は、当然モデルルームと言つても、すべての人にこれがモデルですよというものをつくることはできないからです。高齢の方、障害をもった方、諸々非常に個別性が高いわけですから、そういった個別性には、人が対応するということです。
また、地域高齢者住宅計画策定の前に、品川区住宅白書を2年かけて作りまして、その中で、住情報センターが必要なのではないか、という提案をさせていただきました。そういった背景で、情報を提供していくためには、人を付けていろいろなことをやっていきたい、ということがありました。常駐は1人ですが、実際には事務所でかなり業務をバックアップしております。新しい資料を取り寄せて送るとか、来訪者への対応でわからないところは指示をしたりしています。小さなモデルルームですが、実際には2人工近く必要なのではないかと思います。
■地域レベルのモデルルームは相談業務が柱
年間利用者数は、大体1500人〜2000人ぐらい。件数では450〜600件を超えるぐらいです。あまりいい立地にないものですから、このような数になっていると思います。現在まで、平均1日8.8人、2.6件ということになります。実際に相談に見える方には、1人に2〜3時間対応していますからかなりハードです。
一方、私の方でお手伝いして、香川県で1997(平成9)年4月にオープンした高齢者モデル住宅は、4月から12月までで6000人ほどの利用がありました。県の総合福祉会館の1角の、福祉機器展示場と同じフロアにあります。県レベルでやる普及啓発のモデル住宅と、地元に密着した品川区のような、区市町村で行う相談業務をメインとするような所では、当然利用の人数も違いますし、役割も違うだろうと思っております。
■地域外の来防者が増加
モデルルームの利用者はどういう方かと言いますと、地域別に見ますと、品川区の利用は31.5%です。1998(平成10)年に入って、若干件数や人数が滅っております。いろいろな所にこういうものが出来たということと、他地域の方に利用が進んできた、ということにもなろうかと思います。東京都内は7割、埼玉、干葉、神奈川県を合わせると85%。その他、海外から台湾や韓国の方が見えています。
また、何人で来るかというと、1〜2人でみえる件数がだんだん増えています。人数では、1995(平成7)年と比べると、1997(平成9)年のほうは、5人以下が半分以上を占めるようになってきました。ですから、人数的には、減ってきていますが、じっくり相談に来る方が増えているということです。
どのような職種の方かというと、いちばん大きな特徴は、「個人」の方が増えているということです。モデルルームの存在が少しずつ広まって、個別の相談に来る方が増えています。初めのころは、どういうことをしているのだろうと、団体の方たちもたくざん来ていました。
「学生」の大半は、介護福祉専門学校などの学生で、建築系は非常に少ないです。「公務員」は、福祉系や、建築系の合計数です。「福祉マンパワー」の中には、老人ホームの職員、へルパー、看護婦や保健婦が入っております。
「教員・医師」の「教員」は、中学や高校の家庭科の先生などです。セミナーを、中学・高校の家庭科の授業で便っていただきました。これからもつとそういう所が広がるといいなと思つております。「メーカー」はありとあらゆるメーカーの方が来ています。「建築関連」は、設計や施工の方。「団体」は、地域の団体とか、いろいろ任意の団体がありますので、そういう方たちです。
■立地条件から利用目的が多様化
個人の見学者の目的は、「住宅」、介護機器を含めた「用品」、「一般見学」という、大きく三つに分かれます。福祉機器の展示場を兼ねておりますので、例えば車いすを選びに来る方、住宅の相談に来る方、住宅の相談に来たけれど、バスボードーつあれば、お風呂は改造しなくてもいいと思われる方もいれば、機器で対応するつもりだったが、実際に見て家を改造したほうがいい、と考えが変わる方もいます。「生活」とは、直接的に「住宅」や「用品」と言わないまでも、これからどういうふうに高齢期の生活を考えたらいいかといった話をかなりじっくりなさる方のことです。
品川のモデルルームは、私たちが望んだわけではないのですが、結果として福祉機器の展示場を兼ねることになって、なおかつ隣が在宅介護支援センターで、2年ほど前から、24時間ホームへルプサービスのモデル事業を始めたところですので、自然といろいろな交流が生まれて、こういう利用の実態になっているということだと思います。
■モデルルームをセミナーで積極的に活用
モデルルームの活用は、行政が意識して活用していることと、存在が知られてきた結果、個人が活用していることと両方あります。
区が積極的に活用しているのは、セミナーとしての利用です。一般区民向けのセミナーのほかに品川区は、介護福祉専門学校を設立しており、その授業や、そこで行っている2級へルパーの講習などに便っています。それから、区内の施工業者向けセミナーも行っています。
いちばん大きいのは民生委員のセミナー受講です。品川区では高齢者の相談員を兼務していることもあって、18回、およそ170名にセミナーを受講してもらっています。品川区の民生委員の3分の2、66%が既に受講しています。身近なお年寄りで間題を抱えていたのだけれども、教えてあげようといった、セミナーを受講して得た知識を活用していただく、というのが大きな柱です。
■他の事業窓口とも相互バックアップ
住宅改造については、品川区でも助成事業を行っていますが、その住宅改造助成事業と、モデルルームの事業は直接的にはリンクしていません。ただし、区の窓口では、区民や業者の方に見学を勧めるといった形では、バックアップになっているかと思います。
これまでに何度か、モデルルームで図面をチェックしたらどうか、あるいは現場へ行って施工や、設計のアドバイスをしたらどうか、という話が品川区との間で出ましたが、やりませんでした。
その1つは、図面をチェックするためには何度も現場に出向いて、その方の状態を確認して、なおかつ施工もチェックしなければ責任は持てないからです。品川区では、年間に240件程度を助成事業として行っており、それに対して、何度も現場に行く費用が、現実的に出せるのか。一部の人にだけそういうことをすると、不公平になるではないか、ということがありました。
ですから、チームを組んで現場に行って、改造についてアドバイスをするというのは、モデルの事例を収集するためにはあり得ても、区が全体として行うのは現実的ではない、という結論になりました。
もう1つには、セミナー時以外でも施工業者の人たちが時々モデルルームに来ておりまして、手すりはどこに行ったら買えるのでしょうか、という初歩的な質問を含めて間かれることがあります。こうした時にも、いろいろ相談に応じたり、資料等を提供しておりますので、そういうバックアップが、現実的にはいちばんいいと恩います。
1997(平成9)年は、助成事業のうち大体半分以上が30万円以下の小規模な工事でした。こういう工事をきちっとしていくためには、施工業者のレベルをどうやって上げていくか、ということが行政の課題としていちばん重要なのではないかと思います。つい何日か前も、水道業者の方が、これから住宅改造の仕事をしたいのでといって、勉強をしに来ました。結果としてですが、こういう形もあったのだと思います。
また、区の住宅改造の担当者は、かなり頻繁にモデルルームに来ていますので、そういう時にいろいろ話をさせていただいております。他区の方でも、異動になった住宅改造の担当の方が見学に来ております。そのほか、専門業者の新人や、業者の営業の方も、モデルルームで案内している内容を知らないということで、そういう人たちへのバックアップ的な機能を果たしていると思います。
そのほかに、品川区で行うといった意味でいくと、高齢者に対する借上げ住宅の建設などを計画している、設計や施工業者の方は、必ず見学してくれています。住宅改造以外では、高齢期の生活環境を整えるといったことに関して、先日は、保健婦が、寝たきりを防ぐ講演をする前に、勉強に来たり、へルパーや、病院の看護婦たちもかなり見学に来ています。そういうことで、品川区の中では活用をしていただいております。
■今後の課題ばまちづくりとの連揺
1997(平成9)年に、保健所の環境衛生員の方たちと意見交換会をしました。モデルルームでは、環境衛生員の方たちの行っている健康なすまいづくりなどのチラシなども展示しております。
見学に来る方、あるいは現実に相談に来る方との双方向の情報交換、生の声のやり取りの中で、どういうことが必要だということが、私たちの蓄積になってきました。
香川県のモデル住宅は、残念ながら相談員が常駐していないので、ビデオを回したり、団体の見学時には案内者がつくという形で対応しております。利用者数は多いのですが、理解が深まっていることには単純にはつながらないかもしれません。
モデルルームの事業自体は、造ることに建設省から補助がありますが、人を付けることには補助がありませんので、みちらこちらで話はあっても、あまり進まないのだと思います。
品川区での今後の課題は、まちづくりとの連携です。不燃化促進とか、狭隘道路の整備といった事業が動く時に、もう少し見学や相談をして下さるといいのですが、バリアフリー住宅というのはお金がかかるとか、自分には関係のないことだと思つている方が多いようで、そういうチヤンスの時に、なかなかうまく連携できてないのです。
■高齢期の住まいは二段構えの対応を
最後に、今後の高齢者のすまいづくりについてまとめます。日本のいままでの住宅事情を考えると、車いすになった要介護の方が、在宅で生活を行う時には、大幅な住宅改造が必要で、それは、いろいろな意味でなかなか難しいと思います。もともと日本の住宅は段差が多く、畳での生活でした。間取り自体にも間題が多く、家に広さがあっても、介護機器が使えないような状態でした。
それから、住み慣れた家で生活を続けるということが、専門家の間では常識だったとしても、一般にはあまりそういうことを意識して住宅を整えてこなかったと思います。なるべく元気なうちに高齢期の生活環境を整えることが重要です。
単純に、要介護期に備える、といったことだけでは、70歳くらいになると、1日の生活時間のうち平均20時間程度を家で過ごすので、若い頃とは生活時間が違ってきます。ですから、積極的に高齢期の生活を楽しむように住まいを整えていただく。そして、車いすなどを使う時に、簡単な改造で済むようにしておく、といった二段構えの対応をしていかないと難しいのではないかと思っています。そういう意味では、新築、あるいは増改築の制度というのが、あまり力を入れられてないと思っています。
■共通の認識を育む住教育が大切
それから、モデルルームにはいろいろな方が来るわけですが、ご案内していて、建築、福祉、医療の連携と言っても、共通認識があまりにもないのではないかと思います。ですから、先ほど中学や高校の家庭科の授業で使われていると言いましたが、そうした「住教育」が、これからはもっと必要だと思います。モデルルームは、かなり有効な方法だと、5年間やってきて思っております。そういうこともあって、高齢期の生活環境をどう整えればよいかということを、多くの方にわかっていただければと思い、『50歳から生きる家』(発行:婦人生活社)という本を出しました。
モデルルームの運営に関しては、相談内容にどこまで関与するかがいつも間題としてありました。例えば、間取りを持って相談に来る方もいます。いろいろご案内はしますが、間取図を書き直すことまではこちらではできませんので、そのようなことも含めて、本としてまとめました。